皮相な自民党総裁候補報道はヤメテください

 菅首相の退陣表明を受けて、自民党総裁選に多数立候補する模様だ。誰が次期総裁になるにせよ、衆議院の総選挙も予定されており、9年にもわたる安倍・菅政権による政治運営の真剣な総括が必要だ。そうでないと、コロナ対策の失敗の繰り返しになるし、何よりも憲法を尊重した政治に戻せるかどうか、といった最大の争点を覆い隠した政局報道に堕してしまうことになる。安倍・菅政権の政治運営で、私が最も問題だと思うのは、憲法を守らないことだ。2015年の戦争法の強行が最たるものだが、直近では憲法に基づく野党の臨時国会召集要求を拒否していることなど、全くもって許せないことだ。一事が万事、憲法違反を平気でするのだから、法律違反も平気の平左。昨年の日本学術会議会員の任命拒否も記憶に新しい。しかも、任命拒否の理由を聞いても、まったく答えない傲慢さには、怒りがわき上がってくる思いだ。自分は何様のつもりかと。主権者は国民である。行政は、その国民からの預かり物であって、私物ではない。行政は、全国民のためのためのものだから、権力者とそのお友達のために権力が行使されてはならない。にもかかわらず、森友加計問題、桜を見る会に見られるように、お友達優遇という権力私物化を平気で行っている。「妻や自分が関わっていたら、総理も国会議員も辞める」というう安倍前首相の答弁に端を発した、財務省の公文書改ざん問題では、赤木俊夫さんという改ざんを強要された近畿財務局の職員が、痛ましい自死を遂げている。

 このように枚挙にいとまがないほど、安倍・菅政権は、汚辱にまみれている。次期総裁選候補者は、それらについて、どう考えているのか、どうしようとしているのか、どう行動してきたのか、といったことを問い質し、その政治責任と立場を問う報道なら、国民のために役立つものとなろう。候補者も自民党国会議員として、あるいは閣僚として、安倍・菅政権を支えてきたわけだから、まったく責任がないとは言わせない。その自覚と、今後どうしていくのか、その保証はあるのか、といったことについて、報道機関は「忖度」なしに問い質し、候補者の実像を明らかにしてほしい。

 それなしに、昨年の総裁選時のように、「秋田の田舎出身のたたき上げ、パンケーキ好きの令和おじさん」といった皮相も皮相、上っ面だけのどうでもよい事を垂れ流して、国民の判断を誤らせるだけの報道なら、しない方がましだ。公共の電波を使って報道することでもあるまい。

 こうしている今でも、コロナの陽性になっても保健所から連絡も来ず、連絡してもつながらずに、自宅に放置されて苦しみ、命を落としていく国民が生まれている。保健所や病床を削減し続ける政策を実行し、このような事態を招いた政治責任をどうとるのか、政策転換をするのかどうか、といった国民の関心事に応える報道であってほしい。治安維持法の下、特高憲兵が国民を監視し、拷問し、裁判もせずに政府にとって都合の悪い国民を殺した戦前の暗黒時代ではない。にもかかわらず、権力者に迎合し、忖度し、自分の身の安全をはかることに汲々としているマスコミ各社を見ていると、情けないこと限りない。記者会見で、記者の質問にまともに答えず、逆に恫喝している権力者を見ることがあるが、そんなこけおどしに屈せず怯まず、きちんと答えるまで質問を続けてほしい。そして、その権力者の真実の姿を暴いてほしい。世の理不尽を許さない、反骨、硬骨の正義漢であってほしい、ジャーナリストには。官房機密費のお裾分けなどの甘い汁に惑わされず、大事なものを捨てての立身出世などくそ食らえ、の意気軒昂な記者が出てくることを望む。