修学旅行の実施可否は、市長や知事が指示することではありません

 大阪市長や知事が、コロナ感染拡大防止のための緊急事態宣言下でも、大阪市立学校・府立学校の修学旅行を実施すると明言している。教育に関する法律を知らないのか、と驚いた。公立学校の教育は、政治的中立性を確保する必要から、教育委員会の指導・助言の元に営まれている。教育委員会は、教育委員の協議・合意に基づき、運営されている。首長は、総合教育会議を開催し、教育に関していろいろ意見を言ったりすることは可能だが、意見が一致なかったことに教育委員会が拘束されることはない、というのが地方教育行政に関する法律の建て付けだ。特定の党派に属する政治家である首長が、露骨に政治的首長を教育に持ち込むことがないように、制限をかけているのである。維新は、選挙結果が「民意」だとよく言うが、白紙委任されたわけではなく、こと教育に関しては、慎重で抑制的な態度を持つことが要請されている。たとえば、仮に共産党員が首長に当選したからといって、その主張を教育現場に押しつけることがあってはならないのは当然だろう。それは、どの党派の首長にとっても同様のはずだ。

 2020年2月末に、安倍前首相が全国の学校に一斉休校を「要請」したが、それは首相にそれを強要できる権限はないことを知っていたからである。にもかかわらず、全国の教育委員会と学校現場は、その「要請」内容の是非を検討せず、一斉に右にならえをしてしまったから、一億総「忖度」「思考停止」状態に陥っていることが明らかになった。今回の大阪の事態も、そうなってしまうのではないかと危惧される。マスコミもちょっとちがうのではないか、という視点で報道していないのが気がかりだ。

 緊急事態宣言下での修学旅行実施の可否を論ずる以前に、上述した問題点があることを指摘したかった。首長が教育について意見を述べることは結構だが、その意見を受け入れるか否かは法令に違反しない限り、教育委員会や現場が判断することである。これは、教育のあり方をめぐる看過できない重要な問題だと感じている。