市民の個人情報を民間に委ねる愚 ~尼崎市のUSB紛失騒ぎ~

 尼崎市が市民からの問い合わせ応えるコールセンターを民間に委託し、市民の個人情報を入れたUSBメモリーを預かった業者の社員がそのメモリーを飲酒居眠りの末、紛失するという騒ぎがあった。幸いメモリーは見つかったが、市の業者に対するコントロール不足と、預かった業者と社員の軽率さを非難する声が多い。しかし、問題の本質はそこではなく、そもそも給付金支給に関する市民からの問い合わせに応答するという業務を民間に委託したことの是非ではないか。

 当然、所得や税負担というセンシィティブな個人情報を扱うのだから、守秘義務を負う公務員たる市の職員が担うべきではないのか。いくら委託契約で守秘義務を課したところで、守られる可能性は、身分保障された公務員より低いだろう。私は、このような業務まで民間に委託されていたことを知り、ここまで公務の民間委託が進んでいるのかと驚いた。この世には、民間では担えない公務というものが存在する。市場の失敗という言葉が示すように、民間は必ずしも万能ではなく、市場や民間に任せられない分野が存在する。生活困窮者に対する支援策は、住民の生活と福祉を向上させる地方公共団体の担う公務の最たるものではないのか。

 新自由主義が席巻し、公務の解体、民間委託が猛烈に進んでいる。経費節減は大切だが、ここまで民間に委託することが本当にいいのか。一度立ち止まって考えてみる必要があるだろう。住民福祉に詳しい公務員が、その経験を蓄積し、熟練していくことで、住民が受ける福利は大きいのではないか。毎年か複数年で入札があり、委託業者が変更させられることで受けるマイナスは、住民にとって本当にいいことなのか、吟味してみる必要があるだろう。